平成30年度 第2回総会・講演会報告

開催日時:平成30年3月24日(土)
開催場所:国立科学博物館 植物研究部棟

春らしいのどかな陽気の中、つくば市にある国立科学博物館植物研究棟にて、日本地下生菌研究会の第2回総会・講演会が開催されました。会員数の増加もあり、昨年を上回る数の賑やかなメンバーが集結しました。
 総会では各担当者から2017年度の活動報告ならびに2018年度の活動計画について報告がなされ、各活動について活発な議論が交わされました。特に講演会と並んで会の柱となる会報『Truffology』の発行が目前であることが告知され、会報のロゴ案も提示されました。ロゴ案は地下生菌がいくつも含まれる唯一無二のデザインで、会報と合わせ完成がとても楽しみです。また、会の収入の使い道についても会員がさらに恩恵を受けられるような活動案が出され、今後の展開が期待できる有意義な総会でした。
 続いての基調講演では、信州大学で昨年学位を取得した山本航平博士から胞子果を作るアツギケカビ目の分類と菌根形成について貴重なお話を伺えました。話は山本博士とEndogone との出会いに始まり、アツギケカビ目の定義の遍歴、日本各地で採取した新種・未記載種を含むEndogoneの美しい写真の数々、その形態的特徴と系統解析に基づく分類について解説がなされました(Endogoneの読み方は国や人によっても異なり、エンドゴンで通じなかったらエンドゴネ、エンドゴニと読むと良いそうです)。私がアーバスキュラー菌根菌から地下生菌に興味を持った人間だからか、山本博士の解説が素晴らしかったからか、多種多様なEndogone(とその近縁新規系統)に終始魅了させられました。さらに植物の陸上進出に関わる重要なテーマである菌根共生の祖先系統の推察について、祖先的苔類であるコマチゴケの地下茎にアツギケカビ目が形成する構造の観察から得た新たな知見と興味深い考察が述べられました。個人的に、私も学部生のときから菌根共生(特にアーバスキュラー菌根)の進化について興味があり、山本博士と出会い初めてEndogoneのことを知ったとき、これはすごい研究になりそうだと感じましたが、その直感は間違ってはいなかったようです。今後の研究も陰ながら応援、期待しています。
 一般公演では折原会長から日本の島嶼における地下生菌の遺伝的分化について、科博の保坂博士と森林総研の佐藤大樹博士より、日本で(世界でも)稀な菌についての紹介と指名手配の呼びかけがありました。具体的な種名については講演要旨集を参照いただければと思いますが、どちらの講演でも標本の再発見すら難しい種もあったようです。時代の影響が大きいとは思いますが、採集・記載する一人一人が標本の重要性を再認識する必要があるように感じました。スライドショーでは正木氏からTuber indicum(イボセイヨウショウロ)の風乾子実体と崩壊子実体から分離したバクテリアの比較について、 岩本氏から原生粘菌の最新分類体系や生態・形態について、細野氏から今年度の戦利品について、中島氏から地下生菌とその近縁地上生菌における特に胞子の比較について発表がありました。地下生菌を見つけるとよく「これは~と近縁なんだよ」と教わるのですが、中島氏の発表のおかげでようやくその言葉の意味(面白さ)を理解できた気がします。さらにロッカクベニダンゴと呼ばれるEntoloma prismaticum の七面体の胞子の顕微鏡写真もあり、今後は胞子の観察もやってみたいなと思いました。
 まとまった休憩がなかった上に、予定より1時間も長くなるほど講演会も白熱し、盛況のうちに閉会しました。その後徒歩で台湾料理屋さんに向かい、美味しい食事をとりながら1年ぶりにお会いできた大先輩方から色々なお話を聴くことができました。講演会・懇親会会場の手配をしてくださった保坂様ありがとうございました。最後に、まだまだ地下生菌を見つけるのもやっとな私ですが、多様な側面をもつ地下生菌に興味が尽きることはなく、今後も熊手を片手に地下生菌との出会いを積極的に求めていきたいと思います。

(千葉大学大学院園芸学研究科 博士後期課程2年 吉野花奈美)
プログラム(クリックで講演要旨を表示)
13:30-14:30 総会
14:30-15:15 基調講演

「胞子果を作る旧接合菌類、アツギケカビ目の分類と菌根形成」
 〇山本 航平 博士(栃木県立博物館)

15:15-15:30 コーヒーブレーク
15:30-16:15 一般講演

「伊豆諸島の地下生菌相の特徴(予報)」
 〇折原 貴道(神奈川県立生命の星・地球博物館)

「日本における稀菌 3 種の所在を探る」
 〇保坂 健太郎(国立科学博物館 植物研究部)

「Wanted!! ミオモテタンポタケ,コヒメタンポタケ,ミヤマタンポタケ」
 〇佐藤 大樹(森林総合研究所)

16:15-16:30 コーヒーブレーク
16:30-17:00 スライドショー

「T. indicum から分離したバクテリアについて」
 〇正木 照久(茨城県つくば市)・中島 稔(神奈川キノコの会)

「原始的(?)な粘菌 原生粘菌類の紹介」
 〇岩本 祥明(東京都)

「今年度採集した地下生菌たち」
 〇細野 天智(宇都宮大学農学部)

「地下生菌とその近縁地上菌」
 〇中島 稔(神奈川キノコの会)

講演会、懇親会スナップ