平成31年度 第3回総会・講演会報告

開催日時:平成31年2月3日(日)
開催場所:国立科学博物館 植物研究部棟

2019年2月3日 つくば市国立科学博物館の植物研究棟で日本地下生菌研究会の第3回総会・講演会が開催されました。
 総会では2018年度の活動報告と2019年度の活動計画について報告がありました。2018年の観察会は北海道での開催を予定していたものが地震によって中止となってしまいましたが、今年こそはというところで北海道の実施を再検討中ということです。また、HPに掲載を予定している写真集の掲載内容、日帰り観察会などについて議論がなされ、今後の活動内容についてはほぼ合意が得られたと思います。そしてつくばのきのこ展はなんと地下生菌をメインテーマにしたいのでご協力くださいと科博の保坂氏から驚きの提案がありました。
 続いての講演会の基調講演は福島大学の石庭寛子博士による「DNAバーコーディングを用いたアカネズミの食性解析」でした。福島の放射能汚染地域で生活しているアカネズミの腸内容物について、次世代シーケンサーを使って配列を調べた結果からいろいろなお話を伺うことができました。アカネズミからは植物、昆虫、菌類といろいろなものが検出されていましたが、キノコ類もいくつか検出されていて、アカネズミはキノコも口にしているようでした。種類としてはカワラタケや、タバコウロコタケ目など固いキノコが多めでしたが、ショウロ科も検出されていました。チェルノブイリではSuillus(ヌメリイグチ属)のキノコをネズミがよくかじっているという写真の紹介もあり、日本でももしかすると普通にキノコをかじっているのかもしれません。これまで調べたところでは検出されたものが偶然食べたか、積極的に食べているのかはまだわからないということで、その検証が必要ということでした。地下生菌の散布と動物にどの程度の関わりがあるのかは気になるところで、これからの研究も非常に楽しみです。
 一般講演は3題あり最初は折原会長の「南方熊楠が残した地下生菌図譜に書かれた種の実態」でした。南方熊楠が残した菌類図譜の中には地下生菌を記録したものがいくつかあり、それらを科博の標本庫から実物を借り受け、貼り付けられた標本袋の標本で種同定をしたというものでした。8点のうち6点は熊楠の同定とは違っていたことが判明したそうで、1907年に採集されOctaviania asterospermaと同定されたものが、折原会長が2016年に新種記載したRossbeevera paracyaneaであったいう例が紹介されました。これは実に記載の90年前に熊楠が採集・記録していたということで驚きでした。熊楠の図譜はこうやって調べることでまだまだ発見がありそうです。また、地下生菌の知見のほとんどなかった時代にしっかりと記録し同定していた熊楠のすごさも感じることができました。
 二題目は、保坂氏の「生物系統地理解析における「誤同定」の問題~幻の菌産地をめぐる~」でした。例としてひとつ、塩基配列データにより地下生菌のヒステランギウム目の地理学的解析を試みたところ、系統関係としてはきれいなパターンがみられたが、その末端の北半球産が集まる枝の中にただ1種南半球(ニュージランド産)があり、産地が「誤同定」されているのではないかという疑いがもたれたことがあったとのこと。調べてみるとニュージランドの採集地には菌根菌のつく樹種もないということで、最終的にその標本を採集に同行した方に確認がとれ、おそらくは採集した方が北米で採集してカッパのポケットにいれたものを、ニュージランドに行った時にポケットから取り出して記録したのではないだろうかという結論に達したということでした。話を聞く分にはとても面白かったのですが、自分が遭遇した場合とても調べられないだろうなと、想像してみると怖いお話でした。
 三題目は、栃木県立博物館の山本氏の「淡色の胞子を形成する日本産黒色系ツチダンゴ属の一種について」でした。ツチダンゴ属の概要や属の中の4つの節について美しい写真と合わせて解説があり、そのあとに未記載種と思われる胞子が淡色のツチダンゴ属の一種と、ツチダンゴをホストとする菌生冬虫夏草について紹介されました。ツチダンゴの仲間は私自身はまだみたことのないものも多いのですが、ぜひ自力で見つけてみたいです。
 スライドショーでは吉野氏から地下生菌探しの時にみられた地衣類について、大前氏から2018年にみた地下生菌、中島氏からユーカリ樹下でみられた地下生菌について紹介がありました。ユーカリにつく地下生菌はメーリングリストでも話題になっていましたが、興味深い発見がいくつもあったようで、ユーカリを見つけたら必ず掘らないといけないと思いました。
 各自お菓子や飲み物を手に取りながらの和やかな進行ではあったのですが、予想した通りに熱を帯びた講演会で予定よりも1時間以上長くなり、盛況のうちの閉会となりました。講演会後は台湾料理屋で情報交換・研究交流会を行い、ここでも地下生菌の話を酒の肴に交流を深めました。

池田英彦((株)環境指標生物)
プログラム(クリックで講演要旨を表示)
13:30-14:30 総会
14:30-15:15 基調講演

「DNA バーコーディングを用いたアカネズミの食性解析」
 〇石庭 寛子 博士(福島大学・環境放射能研究所)

15:15-15:30 コーヒーブレーク
15:30-16:15 一般講演

「南方熊楠が遺した地下生菌図譜に描かれた種の実体」
 〇折原 貴道(神奈川県立生命の星・地球博物館)

「生物系統地理解析における「誤同定」の問題~幻の菌産地をめぐる~」
 〇保坂 健太郎(国立科学博物館 植物研究部)

「淡色の胞子を形成する日本産黒色系ツチダンゴ属の一種について」
 〇山本 航平(栃木県立博物館)

16:15-16:30 コーヒーブレーク
16:30-17:00 スライドショー

「地衣あるところに地下生菌あり(?)」
 〇吉野 花奈美(千葉大学園芸学研究科)・山本 航平(栃木県立博物館)

「2018 年に採集した地下生菌」
 〇大前 宗之((株)北研)

「ユーカリと伴に」
 〇中島 稔(神奈川キノコの会)

講演会、懇親会スナップ